マイ マイペンライ!

マイ マイペンライ!

HAPPYを出てぶらぶらと歩いていると、GINZAの前にNとBが立っているのが見えた。

「おい、N達がいるぞ!笑」

「ホントだ!もうオレら見つかってるじゃん笑」

弟が彼女達に近づいて挨拶をする。

「おーN !」

「へぇー、久しぶりじゃん!」 …へぇーって、なんのへぇーだよ?笑…

「N、元気?」

「どこ行く⁈一緒に飲む⁈」

「また後で来るよ」

「ウソ!」

Nはそう言って怒るが、男の心理を分かっているのかプライドがあるのか、それ以上は言わずに我々を見送った。Bは笑顔を作っているが何も言わない。私がもう彼女に関心が無い事を分かっている。

GINZA を離れると遠目からFAHRENHEITの前で先程の猫耳と大学生が呼び込みをしているのが見えた。

「オレ、さっきのファーレンのコにしようかな」

「あの大学生?」

「うん。もう一回行っていい?」

「おう、いいよ」

そう決めて猫耳達に向かって歩き出す。彼女達は早くも我々を発見し、戻った獲物を逃さぬよう駆け寄ってきてガッチリ腕を組む。我々は彼女達に連れられて再度入店した。

ドリンクをオーダーして改めて彼女達と乾杯。

さっきは元気に話をしていた猫耳だが、今度は甘えた態度で接してくる。身体を密着させて私の胸にしな垂れかかる。我々が出た後にテキーラでも飲んで酔っ払ったのか、それともペイバーを誘導しようという作戦か。いずれにせよ今日は彼女と帰ることはないので少々バツが悪い。

早々に隣りの弟が大学生にペイバーを打診している。それを見ていた猫耳が当然私にもペイバーを求めてきた。

「ホテルはどこ?」

「ベイウォーク。知ってる?」

「知らない」

「ここから近い」

「一緒にホテルに帰りたい。」

…あー、まぁそうなるよなぁ。心が痛いな…

「今度ね」

「なんで今度?今日がいい。」

「今日は疲れた。また今度」

正直に他のコに決まったと話すのも気が引けて、疲れたと言って押し通す。弟が大学生を連れ出す以上、すぐにバレてしまう嘘なのだが、いまはこれで切り抜けようと思った。

「あなたの兄弟は彼女をペイバーするんでしょ?」

「知らない。。」

「する!あなたはなんで私をペイバーしないの!?」

「疲れたから、寝たい。。」

「私も一緒に寝る!」

「今度ね。。」

「ノー! 今日!!」

「ごめんね。。」

彼女が遂にキレてしまった。フンッと怒った顔で立ち上がり、どこかへ行ってしまった。

…うわぁ、怖っ。そんなに怒らなくても…

彼女の事は気に入っていた。今日はもう相手を決めてしまったからダメだが、場合によっては後日一緒に帰る事もあったかもしれない。だが、こうも嫌われてはもうその可能性もないだろう。

弟はショートタイムで大学生をペイバー。猫耳がいなくなったので彼女に状況を説明する。

「私のレディーがHAPPY で待っているから迎えに行く。一緒に行ける?」

「オッケー」

猫耳がどこにいるのかわからないが若干の気まずさを感じながらバーを出てHAPPY に向かった。

HAPPY に入るとDは着替えて待っていた。隅の席でひとりスマホをいじっている。私が戻った事に気づいても愛想笑いの一つも無い。だが、私服に着替えた彼女はさらに魅力的に見えた。とりあえずドリンクをオーダーして4人で乾杯する。

「待たせてごめんね」

「大丈夫」

「寂しかったでしょ?笑」

「カー 笑」

と言ってDは笑った。意外にも冗談を言う器量はあるようだ。

「Dは結婚してる?」

「まだ」

「ボーイフレンドはいる?」

「いない」

「じゃぁオレのガールフレンドになってよ笑」

「オッケー。じゃぁ、これ買って笑」

「オーイ…笑」

私に洋服の画像をスマホで見せながら笑っている。

…あれ?なんか普通に話すじゃん?…

間を置いて少し慣れたのか、Dがちょっとづつ話をするようになってきた。顔とスタイル以外の面では彼女にはあまり期待はしていなかったので嬉しい誤算だ。

それぞれのドリンクを飲み終えた頃にチェックビン。4人でバーを出る。元気のいい大学生が先陣を切って歩く。彼女と弟の後を追って私とDが付いて行く。どういう経緯で行くことになったのか、大学生がFROGに入って行くので後を追う。前回N達とも飲んだ一番奥の海辺のテーブル席に座った。改めて皆で乾杯し、ビールを飲む。海を眺めながらのビールはやはり美味い。

私もDも酔って緊張が解け、会話も増えてきた。バーにあるビリヤード台でビリヤードをしたり、お互いライン交換をしたり、思いのほか楽しい時間が過ごせた。

ひとしきり楽しむと、大学生がすぐ近くのイサーンディスコに行きたいと言う。いい歳をしたオヤジがディスコなど行くこともないし踊るハズもない。本来なら敬遠したいところだが、少しだけだと言うので試しに付き合うことにした。

Dもディスコに行くというタイプではなさそうだが、嫌な顔もせずに付いてくる。Dもイサーン出身だと言っていたから嫌いではないということか。イサーンミュージックとタイソングの違いもわからないが、せっかくなので楽しもう。そう思って入店する。

そこはウォーキングストリート入口付近にあるディスコだった。ディスコと聞いて構えていたが何度もこの前を歩き、中の様子を見ていたので、あ、ここなの?と拍子抜けしたほど。ドリンクとつまみ程度の料理を頼み、また乾杯。そろそろ私も酔っ払ってきたなと感じる。大学生は元気に飲んだり踊ったり。Dが踊るようなことがあれば、HAPPY では踊らないくせにここでは踊るのか?と茶化してやろうと思っていたが、彼女はやっぱり踊らなかった。

だいぶ酔いが回ってきた頃、ひとりでトイレに向かう。ダンスフロアを裏口から出てトイレまでの小汚い路地を進む。トイレから出て来るファランが見え、こちらに歩いてくる。彼は歩きながら路地に置いてあったビール瓶を手に取り構える。その様子を見ながらも意識することなく彼と擦れ違う。がその瞬間、頭をビール瓶で殴られた。

「痛てっ! 痛ってー!! えっー!?」

蹲りながらも振り返ると奴の後ろ姿が見え、扉の向こうへ消えた。周囲を見渡したが他には誰もいない。座り込んで状況を把握する。血は出ていないようだ。一体何があったか理解できない。通り魔的だったので恐怖も何もないまま殴られたが、なぜ自分が殴られたのか分からない。

…とりあえず小便して考えよう…

トイレに入り、小便をしながら思う。

…痛えーけど、そんな痛くねーな。酔っ払ってるからか?…

…ビール瓶割れなかったな。強く殴ってないのかなぁ…

…まぁいいや。とりあえずみんなに報告しよっ!…

フロアに戻り、殴った奴を探す。奴を見てはいたけどあまり覚えていない。姿を見れば分かるのだろうか。広くもないフロアだが、らしきファランは見当たらなかった。

自分達のテーブルに戻る。

「ノリ!!大変!!いまトイレでファランに殴られた!ビール瓶で!笑」

「え!まじで?なんで?てか大丈夫?」

「急に!突然!なんでか分からん。けど痛てー」

痛い部分を改めて確認するとコブができている。

「ほら!ここ!笑」

「ほんとだー!えー大丈夫??」

「マイペンライ笑」

「マイペンライじゃねーし」

「マイマイペンライ?笑」

我々の様子を大学生とDが不思議そうな顔で見ている。

「Dぃーーー!痛いよぉ」

「いや、Dは分かんねーから!」

ここぞとばかりにDに抱きついて甘えてみたがDはポカーンとしている。

Dと大学生に事の内容を説明する。英語でもタイ語でも上手く説明来ないのでほとんどがゼスチャーだったが、なんとなく理解してくれた。大学生はこのディスコによく遊びに来るようで、知っているスタッフに話をしてくれたようだったが、何かが分かることもなくうやむやに終わった。私も相手をはっきり覚えてないし、奴はもうここにいないかもしれない。それより、おおごとになって面倒なことになるより、今が楽しいのでそれでいい。

ひと騒動が落ち着いたところでチェックをし、ホテルへ帰ることとなった。歩いてホテルまで帰り、そのまま解散。Dと部屋に入った。先にシャワーを浴びろと言うので浴室へ行く。交代でDがシャワーを浴びてる間、タバコを吸うためにバルコニーへ出る。Dは予想通りの塩なのだろうか?そんな事を考えながらタバコを吸う。しばらくして彼女がシャワーから出てきた。バスタオルを身体に包んだままベッドに潜り込んだ。私はタバコの臭いを消すために軽くうがいをし、彼女の隣りに潜り込み、彼女の胸に顔を埋めた。

「D、ほら、ここ」

そう言って頭のたんこぶに触らせる。

「オー、痛い?」

「酔ってるから痛くない笑」

「ははっ 酔っ払い笑」

…あー 至福の時間だなぁ…

そう思いながらリラックスしている間に、そのまま眠ってしまった。

朝6時前、Dがベッドから出たのに気づいて目が覚める。一瞬寝ぼけて状況が分からなかったが、不覚にも眠ってしまったことに気づく。

「どこ行くの?」

「トイレ」

彼女の顔とスタイルに惹かれて連れ出したのに、このまま帰すわけにはいかない。

…Dよ、残念だったな笑…

彼女がトイレから戻るのを待ち、ベッドに連れ込み、そして襲う。

複雑な気持ちでフィニッシュを迎えた。私が彼女の胸を舐めると、その度にタオルで胸を拭くのである。でも感じてはいる。だから舐める。気持ちいい。でも拭く。また舐める。気持ちいい。でも拭く。いい加減面白くて笑ったが、彼女も笑ってた。

「オイ!なに!笑」

「マイペンライ笑」

…お!初ネイティブマイペンライ聞いた!てかマイペンライじゃないし。マイマイペンライだよ…

どうしても拭きたいらしい。目の前で拭かれる身としてはだいぶ切ない気持ちにはなるが、まあ良い。それを補う私好みの顔とスタイルなのだから。

シャワーを浴びて着替え終わったDにチップを渡す。彼女は黙って受け取り、金額を確かめもせずにバッグにしまった。

彼女をホテルの下まで見送ろうと着替える。それを不思議そうに見ている。

「どこ行くの?」

「一緒に帰る」

「オッケー、4,000バーツ」

手を出して笑った。

「冗談。下まで送る」

「あー」

ホテルの下まで一緒に降り、モタサイに乗って帰る彼女を見送った。

Dは振り返ることもなく去っていった。

…全くもってビジネスライクな奴だ…

それでも彼女と過ごせて楽しかった。物足りないこともあるしマイナス面もある。でもやはり楽しかった。

モタサイに乗るDの姿が見えなくなると、すぐ目の前に海が見え、ビーチだったことに気づく。

…独り反省会でもしようかな…

ビーチに降りて砂浜を歩く。

この時初めてパタヤの海に触れた。

(次回に続く)