頭を撫でてはいけない!?

頭を撫でてはいけない!?

キラキラちゃんは我々の斜め向かいの席に座っている。確認のため彼女を見ていると目があった。手を振ってみると恥ずかしそうに微笑んで俯く。

…そうそう、これだよ。昨日もこの照れた感じだった!…

間違いなく彼女だ。彼女が顔を上げたのでまた目が合う。今度は手招きをして、こっちに来てとジェスチャーする。だが恥ずかしそうにまた俯いてしまう。もう一度手招きをすると、彼女の隣りにいた女の子が、早く行ってこいと彼女をけしかけてくれた。そしてようやく席を立ち、ニヤニヤ笑いながら私の隣りに座った。

…可愛い。。やっぱ目がキラキラしてる…

美人顔だが優しい目をしている。その目がとても澄んでいて綺麗。私にはそう見える。

「どう?間違いない?今度は本物でしょ?」

「間違いない笑」

「目がキラキラしてるでしょ?」

「それは無い」

「なんでよ!ほらちゃんと見てよ!笑」

「見てるわ!笑」

弟の判断もあてにならないが、一応確認を済ませてから彼女と話を始めた。

よろしくの意味も含めてドリンクを勧める。

「何か飲む?」

と言ったが笑顔のままで反応がない。ドリンクのゼスチャーをすると、あー! と理解したようでワイをし、スタッフに何かをオーダーした。

「私を覚えてる?昨日来て君を可愛いと思った」

…オレはプレイボーイかっ!笑…

嘘では無いのに本日2度目の言葉に自分で笑う。だが彼女はやっぱり答えない。

…あれ?もしかして英語全くダメな感じですか?…

試しに知ってるタイ語を使ってみる。

「英語は話せる?」

「話せない。。」

「私を覚えてる?」

「覚えてる!!」

…そんなキラキラさせて覚えてる!!って言われても、タイ語で返せないし…

「あなたはタイ語が話せるの?」

「話せない」

「ホント?」

「ホント」

「話せる!! ”話せない”はタイ語でしょ!笑」

と言って笑う。

…いやいや、話せないから…

「昨日ここに来て、あなたが可愛いと思った」

3度目の正直はタイ語で伝えた。

「は!!? なに?」 …”は!?”が強えーな笑。心が折れるだろ…

「昨日ここに来て、あなたが可愛いと思った」

「あー」

…”あー”って。4回も言って結果それ?…

簡単な話は出来るものの、やはりタイ語だけでは沈黙が多くなる。いまひとつ盛り上がれない。だが私は、もう彼女の綺麗な目に恋をしてしまっていた。彼女と一緒に帰りたい。だけど昨夜の弟と同様に部屋では何も話せず沈黙の最終夜を過ごすことになりかねない。彼女と帰るには不安が大きい。どうしたものか。しばらく迷っていると、彼女が突然私の手を取って自分の太ももの上に乗せた。彼女は俯いて私の手を触っている。

…うわぁ、これは反則だろ。だけど可愛い。。…

結局のところ、彼女のスキンシップにイチコロだった。

私は単なるエロい爺いだったと認識して、彼女のペイバーを決めた。

「オレ、このコにする!」

「えー、まじで?」

「なんで?なんかマズイ?」

「いや、いいけど、オレこの店で選べない」

「じゃあ、このコ連れて他の店探しに行こうか」

「うーん。じゃあそうする。悪いね」

そう決まったので、私は彼女に話をする。

「一緒にホテルに帰りたい。ペイバー出来る?」

彼女は頷く。

「ペイバーはいくら?」

「知らない」

そう言って彼女は席を離れると、ママらしき女性を連れて戻ってきた。ママが私に確認を取る。

「ペイバー?ブンブン?」

「はい」 …ブンブンて。やめてくれ恥ずかしいから笑…

「オー! 彼女は胸が大きいでしょ。グッドだよ!」

 …余計な事言わなくていいよ、恥ずかしい…

「いくらですか?」

「ペイバー1000、ショートタイム?ロングタイム?」

「彼女はロングタイム、オーケー?」

ママは彼女に確認してオッケーだと言う。ロングは4,000B。よし、最後は朝まで一緒にいよう。

「じゃあ、ロングタイムで。4,000はホテルで彼女に払う」

「オーケー」

「それと、彼のレディーを探しに一緒にバーに行けるか聞いて」

弟を指して説明をする。

ママが彼女に確認すると彼女は頷いた。大丈夫なようだ。

ママにペイバー代を払うと彼女は着替えに行った。彼女が戻るのを待つ間、最初間違えて呼んでしまった影武者ちゃんがステージでダンスをしているのを見つけた。失礼なことをしてチップも渡せずじまいだったので、彼女のところへ行きチップ200Bを渡す。

着替えから戻ったキラキラちゃんを連れ、3人でバーを出る。次は弟のレディーを探さなくては。素朴ちゃんの二の舞いになってはまずい。日本語が少しでも出来るコがいればと思い、BACCARAへ再入店する。

今日のはじめにここへ来た時はまだ席に余裕があったが、今はお客でごった返している。なんとか3人の席を用意してもらいドリンクをオーダーする。改めて周りを見渡すと女の子の数も随分と増えているような気がした。

弟のレディーを一緒に探すとは言っても基本は放置である。私はキラキラちゃんで忙しい。ステージで踊るレディーを見て、あのコが可愛いとか、あのコはおっぱいがデカイけどシリコンでしょ?とか、お前もシリコンなのか?とか、私は彼女を退屈させない事に尽力する。

そのうちに弟はどこからか女の子を見つけ出して話をしていたようだったが、結局誰も選べず店を変えようと言った。

「ねえ、タイ人の頭って触っちゃダメなんだっけ?神様がいるとかで。」

「あー、それ知ってるけど。何で?」

「今のコ、可愛いかったしちょっと日本語も出来たから気に入ってたのに、可愛いねー!て言って頭撫でたら怒ってどっか行っちゃった。」

「ホントに?そんな事ある?なんか違う理由じゃないの?」

「いや、ほかに理由がない。頭撫でるまではニコニコしてたし」

「てか、そもそも頭撫でるとか普通する?それってヨシヨシみたいなことでしょ?気持ち悪っ!」「いや、可愛い時するでしょ!」

「しない。した事ない。そりゃ気持ち悪くて逃げられたな笑」

「違うわっ!みんな撫でるから!」

「撫でない。キモっ! ヨシヨシって何様目線だよ笑」

BACCARAを出た弟は、女の子に逃げられ心が折れたのか、私達をあまり待たせては申し訳ないと感じたのか、結局初日に選んだGINZAのNにすると言ってGINZAに向かった。

GINZAの前に着くがNはいない。この2日間、Nはいつも店の前で呼び込みをしていた。だから昨日も我々が他のバーをウロウロしているのをNに見つかった。

「余計な時はいるくせに肝心な時はいないな笑」

弟が自分勝手な事を言っている。

GINZAを通り過ぎ、さてどうしようかと考えながら、また戻ってGINZAの前を通ると、Nがいつものポジションに立っていた。Nの隣りにはBもいた。Bと目が合った。

GINZAにキラキラちゃんを連れて行ったら少し気まずい思いをするのは予想していた。だが所詮は携帯ちゃんと呼ばれる程度の相手。サービス精神の無かった相手にこちらも遠慮は要らない。そう思って構わず店に入った。

弟はがっちりNに捕獲されて席に座る。ドリンクをオーダーする前から凄い勢いでNに詰め寄られている。

「おまえ、昨日は何で来ない!?」

「昨日は疲れて帰った」

「おい!うそ!私は見た!おまえは女と歩いてた!」

「知らない。俺じゃない笑」

「は!!? 今日は何処に行った!?バカラでしょ!」

のっけからおまえ呼ばわりされている。多くの客が同じなのだろう。我々の行動も読まれている。見ていて笑える。Nの勢いにキラキラちゃんも驚いている。まぁ放っておこう。日本語さえ通じれば彼はゴーゴー嬢の上をいく調子者だ。なんの問題もない。

「今日はペイバーするんでしょ!?」

「するよー!俺はNだけ!」

「ホントか!?」

「ホントだよー!」

…何なのこの会話?笑…

あっという間にNをペイバーしてGINZAを出た。

皆お腹が空いていると言うので、昨日行ったBeer Gardenで最後の晩餐をする。やっぱりこの店は気持ちがいい。お互い違うバーの女の子を連れて一緒に食事をすることになったが、Nは慣れているようで気にもしていない。夜の世界の暗黙のルールなのか、私とBの事には一切触れない。ビールで乾杯してしばし食事を楽しむが、明日は早朝にホテルを出なければならない。早めに切り上げてホテルへ帰ることとなった。

彼女と部屋に戻る。早くシャワーを浴びてゆっくりしたかったので、先にシャワーを浴びに行く。交代で彼女がシャワーを浴びる間に帰国の支度をして待つ。無駄な沈黙が嫌だったので、シャワーから出た彼女をすぐにベッドに誘った。

事のあと、日本から持ってきたタイ語の本をバッグから取り出した。ブログなどでも紹介されていた”指さし会話帳”という本。二人でベッドに横になり、まさに指をさしながら出身は何処だとか、何が好きだとか、のんびり話をする。ホテルのwifiが繋がっていたのでラインを交換し、スタンプを送り合う。ほっこりした時間だった。

いつの間にか眠っていたようで、彼女に起こされる。タクシーが来る1時間前だった。彼女は着替えを済ませており、私に帰ると言った。約束のチップを彼女に払うと、ありがとうと言って無造作にバッグに入れた。

別れのハグをして、部屋のドア越しから彼女を見送る。姿が見えなくなった。この瞬間でパタヤの旅が終わったと感じた。今は眠気が寂しさを紛らわしてくれている。タクシーに乗る頃にはどれほどの寂しさを味わうのだろうか。そう思いながらチェックアウトの準備を始めた。

(終わり)